『BRUTUS』編集長・西田善太さん
雑誌『BRUTUS』をクライアントの課題解決として活用する場合、どのような強みがあると思いますか?
西田:以前、クリエイティブディレクターの箭内道彦さんが、僕らのことを「小さなクリエイティブエージェンシーだ」って言ってくれたことがあるんです。「読者というクライアントの課題解決をしているという意味では、僕がやってることも西田さんがやってることも同じだと思う」って。それがとても嬉しかったんですよ。
面白そうなものを「こうしたらもっと面白くなる」って新たな課題を立てて、可能性のある解を集めて、つなげて、効果を狙っていくという意味では、編集作業は広告会社のプロセスと似てると思うんです。しかも僕らには長年、一つのターゲットを見続けてきた圧倒的な深さがある。
自分は博報堂にコピーライターとして勤めていた経験もあるので、「出会えてよかった」「これは楽しい!」って思わせる人々を引きつけるテクニックには自信があります。アイデア出しででっかな風呂敷を広げることは得意。関係ないようにみえる事柄が、会議でみるまにつながっていくことがよくあります。広がった風呂敷を畳んでくれる人は大変なんですけど(笑)。
点と点を結んであげることができるのが雑誌編集者であり、少なくとも僕は、煮詰まった会議に参加させていただければ、何かしら出口を見つける自信はあります。
『BRUTUS』が紙媒体を持つことの意味を教えてください。
西田:『BRUTUS』はデジタル(BRUTUS.jp)にも力を入れていくけど、やっぱり紙で見て、持ち歩ける、置いておけるパッケージとしての編集の面白さみたいなものがあるんです。スペースや時間の制限があるからこそ編集が生まれるわけで。
『BRUTUS』の見せ方に関しては常に、表紙から入って扉があって、ストーリーがあって、途中に細かいページ、最後に裏切りがあってニヤッと笑う、みたいな工程で作ってる。読者に順番どおり読まれないとしても全体はそういう形になっている。
メソッドや考え方は雑誌の作り方をベースにするほうがパッケージの完成度が高くなり、その一部をデジタルで切り売りしても他社と比べて圧倒的に面白いものができている自負がある。そこは強みですね。
例えば、このコロナ禍に「クラシック音楽を始めよう。」とう特集号を出したんですけど、それがクラシックのコア層も喜んでくれたのはなぜか。それは入門編にしようと思って作ってないからです。
入り口は広げてあるけれど、奥の奥までおさえてる。クラシックのマニアをぎゃふんと言わせるような作り方をするかしないかっていうのが、『BRUTUS』と入門編の本の違い。1時間で分かるクラシック入門編の本って山ほど出てるけど、そういうふうにしないように、丁寧に細部に心配りしながら作ってるとこが肝なんです。もしかしたらこの肝が、いわゆる広告会社が言うところの「ターゲットインサイト」という部分かもしれない。
これから是非、MATCHの皆さんと、たくさんのクライアントをぎゃふんと言わせたいですね。